前回の話に続いて鬼や妖怪を討伐した英雄たちの話を。最後は俵藤太こと藤原秀郷を取り上げます。


俵藤太。後の藤原秀郷


藤原 秀郷〜作られた伝説?

 藤原 秀郷(ふじわら の ひでさと:生没不明)は、平安時代中期の貴族・武将です。平将門(たいらのまさかど ?〜940)を討伐した武将といえば有名でしょうか。
 この人にも妖怪を退治したという伝説が残されています。

百足退治伝説 
 近江国の瀬田の唐橋に大蛇が横たわり、人々は怖れて橋を渡れなくなってしまいましたが、そこを通りかかった俵藤太(後の藤原秀郷)は臆することなく大蛇を踏みつけて渡ります。
 すると、その夜、美しい娘が藤太を訪ねてきました。娘は琵琶湖に住む龍神一族の者で、昼間藤太が踏みつけた大蛇はこの娘が姿を変えたものであったのです。
 娘は龍神一族が三上山の百足に苦しめられていると訴え、臆することなく大蛇を踏んだ藤太の剛を見込んで百足退治を懇願します。


「俵藤太絵巻」より


 藤太は快諾し、剣と弓矢を携えて三上山に臨むと、山を7巻き半する大百足が現れました。藤太は矢を射ましたが大百足には通じません。
 最後の1本の矢に唾をつけ、「南無八幡大菩薩」と八幡神に祈念して射るとようやく大百足を退治することができました。
 藤太は龍神の娘からお礼として、米の尽きることのない俵などの宝物を贈られます。俵藤太の”俵”という姓はこのときついたものと言われています。
 また、龍神の助けで関東で挙兵をし、朝敵となった平将門の弱点を見破り、討ち取ることができたという伝説も残されています。


出典
illustramble.skr.jp

百目鬼退治伝説 
 見事、平将門を討ち取った藤原秀郷は、朝廷から恩賞として下野国司に任じられました(現在の栃木県)。秀郷は宇都宮に館を築き、ある日、その近くで狩りを行いますが、その帰り道、田原街道・大曽の里を通りかかると、老人が現れ、「この北西の兎田という馬捨場(馬の墓場)に百の目を持つ鬼が現れる」ということを告げられます。
 秀郷が兎田に行って待っていると、丑三つ時の頃、俄かに雲が巻き起こり、両手に百もの目を光らせ、全身に刃のような毛を持つ身の丈十尺の鬼が現れ、死んだ馬にむしゃぶりついていました。
 秀郷は弓を引いて最も光る目を狙って矢を放ちます。矢は鬼の急所を貫き、鬼はもんどりうって苦しみながら明神山の麓まで逃げ込みましたが、ここで倒れて動けなくなりました。
 鬼は体から炎を噴き、裂けた口から毒気を吐いて苦しんだため、秀郷にも手が付けられない状態となり、その日は一旦館に引き上げることにします。
 翌朝、秀郷が鬼が倒れていた場所に行くと、そこには黒こげた地面が残るばかりで鬼の姿は消えていました。


伝説が生まれた背景
 これらの伝説が生まれた背景ですが、乱を起こした側であるはずの平将門の方が、死んでから人気が出てきたことに対する対策であったとも言われています。
 朝敵であり反権力の象徴として、また「怨霊伝説」として広がって人気を得ていることに業を煮やした藤原秀郷の子孫たちが、秀郷の権威付けのために創作したと言われているのです。
 室町時代に完成した『俵藤太絵巻』などもそういう思惑があったかもしれません。

 秀郷の百足退治は近江国が舞台ですが、本拠地である下野国(栃木県)に、実は似たような話が古くからあります。それは日光戦場ヶ原の伝説。
 ここには、神代の時代に、大蛇に変身した男体山の神と、大百足に変身した上野国(群馬県)の赤城山の神が、中禅寺湖の領地問題で争ったという伝説が残されているのです。
 「戦場ヶ原」という名の由来もこの神々の戦いから来ているのですが、この争いに決着を付けたのが、男体山の二荒神の孫で弓の名手であった小野猿丸。赤城山の大百足の目に弓を放ち、撃退させ、男体山側を勝利に導いたとされています。
 この地元の伝説が、秀郷の百足退治の物語に結びつけられたのではないかと考えられているのです。内容が似ていますので、実はそうかもしれませんね。


戦場ヶ原のおみやげ屋さんにある戦場ヶ原の由来の伝説の金屏


 
 前回の源頼光や頼政などもそうですが、これらの妖怪退治伝説は単なる英雄譚にとどまるものではなく、その裏に隠された武家社会の思惑まで考えると面白いかもしれません。

 功績を上げた実在の先祖に鬼や化物、妖怪などを退治した英雄譚が結びつくことで神聖化し、権威付けになる。その恩恵を子孫も受けることができる。そう考えるとなんだか夢もロマンも薄れてしまいそうですが・・・。

<前記事>
→妖怪を討伐した英雄たち〜その1 酒呑童子と源頼光
→妖怪を討伐した英雄たち〜その2 源頼政の鵺(ぬえ)退治

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