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屍体安置所から現れる事故死したパイロット

 お盆が近づいてきましたので、あの世の話をしていきましょう。
 第二次世界大戦のイギリスの実在したモントローズ基地が舞台です。出典はM・ケイデン著の『空の上の超常現象』から。

◆屍体安置所から現れる事故死したパイロット
バトル・オブ・ブリテン.JPG
 1942年の夏、モントローズ飛行場は蜂の巣をつついたような活気に満ちていました。この基地はパイロット養成の訓練を昼夜を問わず行われている基地です。
 昨年行われたバトル・オブ・ブリテン(イギリス上空の戦い)で、勇猛果敢な英国空軍パイロットが多大な犠牲を払いながらもイギリスのピンチを救った事実から、優秀なパイロットの補充拡大は国家の最重課題でもあったのです。

 それに伴い訓練中の事故も頻繁に起きていました。モントローズ基地の周辺の丘陵地帯には練習機が突入してできた爆発痕や火災の痕が至る所にできていました。

 この夏、一人の大尉が墜落死します。この大尉はその部隊では有名で、地上要員に対する執拗なしごき、部下の失策や規則違反に対する罵詈讒謗は醜いものでした。簡単に言えば、彼は”本当に嫌な野郎”だったのです。
 この大尉が墜落する一週間ほど前、大尉とある整備員の間にトラブルが生じます。大尉はこの整備員を気が狂ったかとしか思えないような勢いで罵倒し、そして査問委員会にまで引き出したのでした。
Miles_Master.jpg
当時使用されていた英空軍のマイルズ・マスター練習機 

 そんな騒ぎから一週間後。同じ整備員が同じ機体を整備し、罵詈雑言の限りを尽くした例の大尉がその機体を操縦して離陸をするのですが、彼の機体は地上を離れたと同時にコントロールを失い地上に激突、大尉は惨死してしまいます。
 大尉への復讐のためにわざと整備に手を加えたのではないかー。疑いをかけられたその整備員は再び査問委員会に呼ばれる羽目になりますが、証拠も出ず、彼の事故死は公式記録に載ったままで査問委員会は閉じられることになりました。
RAF.JPG
 それから間もなくのこと。このモントローズ飛行場にパイロットの幽霊が出るという噂が立ちます。イギリスの飛行場にパイロットの幽霊・・・飛行場ではよくある話ではあります。
 その出で立ちから士官パイロットである事が分かり、誰もが、間違いなくあの幽霊は”本当に嫌な野郎”の大尉ではないかという噂が立ちます。
 罵詈雑言を食わせ、さんざん痛めつけた整備員の思い余った復讐と逆恨みし、この世に留まって復讐にきてくるとは、死んでも”本当に嫌な野郎”だ。皆がそう思うのも無理はないでしょう。
 

将校01.jpg 最初は静観していた司令部でしたが、目撃例が増え、ついに新人の飛行訓練生を惑わせ始めるようになります。この事態についに、モントローズ基地の司令部は、着任する新任者に対し、「ここに出没している”モントローズの幽霊”について事前説明のレクチャーを行う」という方針を公式に決定しました。
 この幽霊の出没が公式に認知されることで、新人の操縦練習生もその訓練飛行に不安を抱くことはなくなったとのこと。自分だけの幻覚ではなく、みんなも認知し、公式に認められているんだということで安心したのでしょうか。そして目撃例もめっきり減り、基地の訓練生も減っていき、基地も静かになっていくとともにモントローズの幽霊の話も聞かなくなりました。
 
 そして終戦と平和が訪れた1946年のある日のこと。今は閑散としたこの基地に、新しく着任した歴戦の古参兵がいました。今となっては恒例の幽霊のレクチャーも行われていないのですが、どういう経緯か前から勤務していた一人が、このモントローズの幽霊の話をし始めます。
 新しく着任したこの古参兵は、ゲラゲラと笑いだし、そんな愚劣な噂を相手にしてる暇はないと一蹴します。
pilot.JPG
 その彼に夜間の基地の警備保安巡視当番が回ってきた時のこと。武装した二人で基地を巡回するのですが、整備工場から広い格納庫、様々な施設の中には、「屍体安置所」の小屋もあるのでした。服務規則には、中までちゃんと入って異常がないことを確認することと命じられています。誰もが気味が悪いその場所では早足になるのはいかんともしようがありません。
 しかし、先程の幽霊話を一蹴した勇敢な兵士は悠然とその屍体安置所の中をゆったりと見渡し、出た所の正面の場所で死体安置所を見渡しながら一服するという大胆な行動に出ます。
 昔はともかく今や屍体など置いていないのだから怖がる必要なんかない。そう言い放ち、タバコに火を付け休憩していると、奇妙な音が・・・・。
 二人はとっさに銃を構え、その音のする方に身体を捻った瞬間です。
 屍体安置所の
が爆発的な勢いで開いたのでした。丁番がはちきれんばかりの勢いです。さっき確認をしたばかりで施錠もしているからです。
 そして大きく開いた
の向こうの暗がりから、人影が飛び出してきました!
 それは明らかに飛行服を身に包み、革のヘルメットと飛行眼鏡を付け怒り狂った表情をしたパイロットでした。
 何度も死線をくぐり抜けた歴戦の勇士も、流石にこの突然の事態に即座に対応ができません。紛れもなくパイロット姿の男がこちらに向かってきます。銃を構えるも、わなわなと震える指で銃も定まりません。
 バタン!再び大きな音を立てて死体安置所の扉が閉まりました。その瞬間、そのパイロットの姿もかき消すようにいなくなりました。

闇夜.JPG

 彼はその恐ろしい体験をしたまま、口にすることもなく、暫くして次の着任地へ行くことになります。新しい勤務地では、かつてモントローズ基地に勤務したこのとのある男と出会うのですが、彼は平静を装いながら男に尋ねます。
「モントローズでは、何か変わったことは起きなかったかね?」と。
男はニヤリと笑い
「モントローズでは何もかも変わった事だらけだったよ。特にあの屍体安置所ではな。」
「話してくれ。」   
「42年の頃らしいが、けったくその悪い大尉が一人いやがって、ある日、てめぇの機体の整備に何かケチがついたらしく、その整備兵を可哀想なくらいに痛めつけたらしい。その後、ある日の朝な、その大尉が離陸前に何か用事があって、あの屍体安置所に行き、そこで怒り狂って扉を蹴破るような勢いで出て、自分の機体に乗って飛んでいったらしんだ。」
「それから何が起きた?」
「あぁ、それで野郎はエンジンをかけて離陸して、そのまますぐに墜落だよ。奴は綺麗サッパリ死にやがったという訳よ。」
 しかし、この古参兵はこの話を聞いて、まだ納得できませんでした。
「しかし、なぜ彼は飛ぶ前に屍体安置所なんかに行ったんだい?縁起でもない。」
「あぁ、その頃は、その場所は屍体安置所じゃなかったんだ。その小屋が当時は飛行指揮所だったんだよ。それでも、あの大尉野郎は幽霊になっても、あの小屋から時々出てくるって来たぜ、相変わらず、怒り狂った姿のままでな。お前さん、聞いたことなかったのかい?」

『空の上の超常現象』要約

 話は以上です。生きていた時の残留思念ともいうのでしょうか。死んだ朝の再現が繰り返し行われているなんてなんか嫌な話だと思います。
 それにしてもしばらく出てこなかったのに、小馬鹿にした古参兵に再び怒り狂って出てきたんでしょうかね。
怒り狂った魂は成仏できずに留まるんでしょうか。いずれにしても生きていても死んでいても"嫌な野郎"であったことは確かなようです。

モントローズ.JPG
話の舞台となったモントローズ空軍基地は1963年に閉鎖されました。

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