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三島由紀夫と二・二六事件の怪

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割腹自殺前の演説を行う三島由紀夫

 今回は、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地でクーデターを起こそうと試み、割腹自殺をした小説家、三島由紀夫に関わる話を。

 

 三島由紀夫は二・二六事件を題材にした憂国十日の菊英霊の聲(こえ)という3つの作品を残しています。
 これは、「二・二六事件三部作」として現行版では河出文庫より重版されてますが、
1966年に発表された「英霊の聲」 (三島由紀夫の割腹自殺の四年前)以後の三島由紀夫の作品は、それ以前とはあきらかに作風が変化した、と多くの評論家・友人らが指摘しています。

 この作品の内容ですが、帰神の会に列席した主人公が、そのとき起こったことを記録したという体裁をとって、二・二六事件と神風特攻隊の兵士たちが次々と霊として下りて来て呪詛する模様が綴られていきます。
 二・二六事件の際の天皇の振舞いと、終戦後の「人間宣言」で、天皇が「人間」になってしまったのを、兵士たちの霊が恨み、憤る言葉が語られ、そのあまりに強い怨念の霊の力を受け止めたために、霊媒師の青年・川崎重男が息をひき取るところで本作は終わります。
  この作品自体の異様さは、今までの三島文学の「らしさ」が全然ないことです。他の仲間の文学者たちからも、「作品の死者たちの言葉が陳腐で定型的な文章であり、激烈な表現を用いながら、そこに文学者としての三島由紀夫の心が少しも入っていない。そう、まるで、誰か他人に書かせた「お筆先」という感じである。」などと指摘があります。

 何より作品を書き上げた直後に三島自身が、母に「夜中にこれを書いていると二・二六事件の兵士の肉声が書斎に聞こえてきて、筆が自分でも恐ろしくなるように大変な速さで滑っていって、止めようと思っても止まらないんだ」などと語り、それを聞いた母がぞっとしたとのこと。
 「 怨霊という言葉は知ってはいたが、現実に、公威(三島の本名)に何かが憑いている様な気がして、寒気を覚えた」と語っているのです(平岡倭文重『暴流のごとく―三島由紀夫七回忌に』(新潮 1976年12月号)三輪明宏が見た三島由紀夫に憑依している霊)

 さらにはこんな話も。
 三島由紀夫の父、平岡梓氏の書いた「倅(せがれ)・三島由紀夫」に よると、ある日自宅で開いたパーティーでのこと、美輪明宏が突然、「三島さんの背中のところに変な人影が見える、二・二六事件の関係者らしい」と言い出し、三島由紀夫がからかい半分にその関係者の名前を片ッ端から十数人あげて、「この男か、この男か」とやつぎばやに尋ねても、「違う、違う」という返事。
 そのうちに「磯部浅一」の名をあげると、美輪明宏は「それだ!」と答えたので、瞬間、三島由紀夫の顔色がサッと変わって青ざめたそうで。

 この磯部浅一という人物は、二・二六事件の実質指導者で首謀者として銃殺刑を受けている人物。処刑の前、獄中での磯部は狂乱し、軍の幹部らを呪ったと言われてます。
「余は死にたくない、も一度出てやり直したい、三宅坂(注・陸軍省のある場所)の台上を三十分自由にさしてくれたら、軍幕僚を皆殺しにしてみせる、死にたくない、仇がうちたい、全幕僚を虐殺して復讐したい」
「天皇陛下 何と云ふ御失政でありますか 何と云ふザマです、皇祖皇宗に御あやまりなされませ」などと、天皇はおろか明治天皇、皇祖神、天照大神にいたる まで叱り、呪っている恨みっぷりです。
 「成仏するつもりなどさらさならない、悪鬼となりて所信を貫徹するのだ。」とまで語る恐ろしさです。
 この恨みは、日本の三大怨霊と言われた平将門、菅原道真、崇徳天皇を彷彿とさせます。


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 もし、この霊が作品を通じて思いが同通し、三島由紀夫に憑依したのであるならば、その後の三島由紀夫の行動も理解できるのではないでしょうか。

 三島由紀夫は、仲間とともに、
1970年11月25日に、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で、憲法改正のため自衛隊の決起を呼びかけた後に割腹自殺を遂げました。
 日本を憂うあまりに義憤が恨みとなり、国家そのものへの怨念となる・・・。
 現代も続くであろう日本国家としての不甲斐なさに、第二、第三の磯部浅一や三島由紀夫は出てくるのでしょうか。
 磯部浅一ら二・二六事件の将校たちの怨霊は成仏できているのでしょうか。国家のこれからを思うに、今また過去の亡霊たちが蘇るつつあるような気がします。


 

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コメント 1

johncomeback

小学生でしたが、凄い衝撃を受けた記憶があります。
週刊誌のグラビアに三島の切り落とされた首が写って
いたからでしょう。
by johncomeback (2014-04-17 16:02) 

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